2007年04月26日

全国学力テストと、ロボットと共存する未来社会へのマーケティング

先日行われた全国学力テスト。その中学校国語Bでロボットについて出題されていました。

中学生の「前田」さんがロボットについて調べたことを発表する原稿(A)とレスキューやコミュニケーションロボットの性能・特徴を紹介(写真付)する表(B)が掲載されています。

設問三 [A]の文章中に ロボットと共存する未来社会 とありますが、あなたは、どのような未来社会を想像しますか。次の条件1と条件2にしたがって書きなさい。

条件1 人間とロボットの未来の関係についてのあなたの考えを書くこと。
条件2 [B]の表に示されているロボットの「性能・特徴」のいずれかに触れること。

これは学力テストという場を借りた全国規模のマーケティング調査のような設問ですね。

若いユーザーがこれからの人間と機械との関係をどのように思っているのか、全員の回答を是非読んでみたいと思います。

この設問だけでいいので、出題に協力した(社)日本ロボット工業会は、回答例を公開できるよう文部科学省と調整すべきでしょう。

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2007年04月23日

ボナンザに感じる「擬似感性」

先週末、NHKBSで放送された「運命の一手 渡辺竜王VS人工知能・ボナンザ」。

昨年の「世界コンピュータ将棋選手権」で優勝した将棋プログラム「ボナンザ」とプロ棋士・渡辺明竜王との公開対局を軸に、一手一手に込められた両者の心理と葛藤を追った112手3時間10分に及ぶ攻防は、大変見ごたえがありました。

チェスの世界チャンピオンが、IBMの「ディープ・ブルー」に敗れたのは1997年。
取った駒を使え、敵陣で「成る」ことができる将棋は、チェスに比べてより複雑なため、現在の将棋プログラムの実力はアマ6段ぐらいの棋力だろうと思われています。
しかし、終盤の読みの速さ、正確さではすでに人間は太刀打ちできなくなっているともいいます。

2005年秋、日本将棋連盟は公の場で許可なく将棋プログラムと対局することを禁止しました。
そのためプロのトップ棋士と将棋プログラムによる公開対局 = 真剣勝負は今回が初めてであり、大変注目を集めた一戦でした。

ほとんどの将棋プログラムは、プロの対局を参考に無駄な手筋を捨て、候補を絞り込む方法ですが、ボナンザは全ての可能性をしらみ潰しに調べる「全幅検索」を採用し、江戸時代までさかのぼる過去80万対局すべてのデータを入力。
また局面が有利なのか不利なのかを数値化して判断する「評価関数」を取り入れ、計算科学で使われる「最適化」という手法も用いています。

それにより、ボナンザは1秒間に400万局面を計算し、最適な「手」を打つことができるようになったといいます。

実際、番組ではボナンザがはじき出した局面の数値から、終盤ではずっと形勢「有利」と判断していたことを紹介していました。

「機械と指しているのではなく,まるで人間と指しているよう」(日本将棋連盟 米長邦雄会長)

面白いのは、ボナンザが高度な探索アルゴリズムによって強いというだけでなく、局面を優勢にするために駒損となる手を指すなど、人間味のある「棋風」を感じさせる将棋を指したということ。

「棋風」はいうなれば「感性」に通じるわけで、将棋プログラムにそのような「擬似感性」が感じられたということは、今後、人間の「心」を持つロボットを開発する上で参考になるかもしれませんね。

参考 :
・産経新聞 3/18
・感性ロボティクスワークショップ (06.3.13)
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2007年04月19日

宇宙を駆けるパブリシティ

先日のボストンマラソンに、国際宇宙ステーション滞在中の女性宇宙飛行士が宇宙から特別に参加。4時間24分で完走しました。

無重力で体が浮かないようゴムひもをトレッドミルに固定して、42.195キロのフルマラソンを完走したというのもすごいですが、アメリカという国はやっぱりエンターテイメントのもつ「力」をよくわかっているなぁ、と思いました。

世界初(宇宙初?)の「宇宙からフルマラソン」というだけで、世界のメディアは飛びつき、日頃宇宙開発に興味のない人も注目します。しかも、参加するのは世界各国のトップアスリート、市民ランナーが出場する伝統のボストンマラソン。舞台は完璧です。

マラソンはゴールに至るまでの間、5キロごとのラップタイム、ゴールに向けてがんばるランナーの姿、完走時間など、さまざまな情報を発信することができ、なにより、42.195キロを走り抜けた「感動」を伝えることができます。

「感動」は人々の心に深く残り、共有され、やがて共鳴へと変わります。

しばし人生にたとえられる「人間くさい」マラソンというスポーツを通して、NASAは非常に効果的なパブリシティを行ったと思います。

ヒューストンの管制官も「最後の心臓破りの丘だ。その調子で頑張れ」などと激励して、イベントの盛り上げに一役かったようです。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)も予算が減らされ大変だと泣き言を言う前に、こうした費用対効果が高く、なにより生き生きとしたイベントを仕掛けてほしいと思います。

参考コラム :
バブルの扇子は宇宙で花開く (06.12.17)
同じ轍は踏まぬよう (06.11.16)

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2007年04月18日

ワーキング犬に負けないロボット

先月、違法DVD探知犬「ラッキー」と「フロー」が、約100万枚の海賊版光ディスクをマレーシアで押収というニュースが流れました。
二匹はプラスチックの匂いを察知すると、お座りをするように訓練されていました。

現在、世界には400種の犬がいるそうです。
ペットとしてはもちろん、盲導犬、聴導犬、介助犬からサルやクマを追い払う作業犬、癲癇の起こる前にてんかんを教える癲癇発作予防犬、トリュフの場所を探し当てるトリュフ探知犬など、人間の100万倍もの臭いをかぎ分ける能力などを活かして「人に役立つ」10数種類のワーキング犬が生まれています。

家庭用ロボットがお手本にすべきは、このワーキング犬かもしれません。

ちなみに違法DVD探知犬「ラッキー」と「フロー」は、そのあまりの活躍ぶりに海賊版シンジケートから命を狙われているという報道がありました。

まずは、2匹を守るボディガード・ロボが必要のようですね。

参考: マツタケ、又はトリュフも可 (06.9.20)


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2007年04月16日

選挙カーからの「お願い」より、セグウェイへの「願い」

統一地方選の後半戦となる市長選や市議選がスタートして、朝から選挙カーからの「お願い」連呼に辟易している方も多いと思います。

候補者同士の車がすれ違うときなどは、周りの建物にこだまして騒音以外のなにものでもありません。
候補者の側からすれば、選挙カーでの選挙活動は有権者に自分の名前と主張を広く効率的に伝える大きな武器であるし、なにより歩いたり、自転車で回ったのでは体力的にキツイ。

そんな中、首都圏の新人候補10人らによって「NO!選挙カー推進ネットワーク」が設立されたとのこと。(※1)

推進ネットは、車にスピーカーを設置しない、車中から音声を発しない、選挙カーに支払われる公費負担を請求しない、の3項目に賛同する候補者らで発足し、
「騒音、排ガスを出し、税金まで使って走る選挙カーを使わない選挙戦をする」と宣言したようです。(※2)

そこで思いつくのは、セグウェイでの遊説。
車が入れないような路地裏やでこぼこ地の公園など、どこへでも乗り入れることができ、車輪分ちょっとだけ高い位置から立ったまま演説も可能。
市区議選の移動手段としてはぴったしのように思いますが、問題はいまだ公道を走れないこと。
道路交通法という巨大な壁が立ちはだかっています。

とはいえ、そこを選挙期間中だけの特例として認めるというわけにはいかないなかぁ。
セグウェイを使った遊説は選挙カーよりずっと注目されるし、なにより環境にやさしいスマートな選挙戦になると思います。

「ロボット特区」で始める自治体があるといいのですが ・・・

(※1)参考: 毎日新聞 4月16日
(※2)公職選挙法では市区議選の選挙カーについて、車レンタル代、燃料代、運転手代を含め7日間で最高計24万6050円、ハイヤーなど貸し切りにすれば45万1500円までの支給が認められている。 
参考コラム:
ロボットが街を出る日 (06.1.31)
谷津干潟と、ひとりの男 (07.1.25)
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2007年04月10日

逆転の発想の遺伝子

(つづき)
東京大学の教授でもあった糸川英夫は、高齢化社会にふさわしい生き方として、人生を二毛作(定年までと定年後)として考えるのではなく、24時間で考えることの大切さを述べています。

東京大学総合研究博物館は、300万点を超える各種学術標本を活用した「モバイルミュージアム」を始めました。

モバイルミュージアムとは、博物館に収蔵されている学術標本を小型ミュージアム・ユニットに組み入れて、社会の様々な場所に展開・流動させる日本初の遊動型博物館のこと。
大学内にとどまることなく、積極的に街に飛び出し、空間を知的に変えてしまおうというものです。
この企画を知ったとき、なるほどそういう手があったかと、とても感心しました。

人々が身近に芸術を親しめるようにと街中や建物、公園などに有名芸術家やデザイナーなどの作品を「大金」を出して設置するケースがよくありますが、単なる「モノ」の展示、「にぎやかし」に終わっている場合が多く、
今ではほとんど価値のなくなったコンテンツを知的空間に再活用するという「モバイルミュージアム」の発想こそ、役人は見習うべきでしょう。

ちなみに、博物館には100万点を超える植物標本(押し花)があり、標本を乾燥させるのに使った新聞紙もモンゴル、サハリン、マレーシアなど旧植民地の現地語新聞、日本語との併用版など400紙あり、今となっては貴重なものが数多いようです。

視点を変えることで、新たな価値を見出すまさに「逆転の発想」ですね。
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2007年04月08日

余計な説明はしない心地よさ

最近は韓流映画の影響でしょうか、それともテレビ的な映画作りのせいでしょうか、やたらと泣き叫び、くどくどと説明する映画が多いですね。

文京区の小石川植物園の一角に旧東京医学校本館(現東京大学総合研究博物館小石川分館)はあります。
ここに東京大学が明治10年の創学から収集してきた600万点を超える各種学術標本の一部が展示されています。

建物の内部は現代的な補強と改築がなされてはいますが、創建(明治9年)当時の雰囲気は十分感じられるつくりになっていて、小さい頃によく遊んだ上野の国立科学博物館の湿った空気の感触を、ふと思い出しました。

無造作に置かれた学術標本や理化学機器のほとんどにキャプションはなく、一体それは何なのか、創造力を刺激します。

その東京大学総合研究博物館と写真家・上田義彦氏とが取り組んだのが、「CHAMBER of CURIOSITIE」。

古びて、価値を失った各種学術標本が、上田義彦氏の手により新たな生命を吹き込まれ、漆黒の闇に凛として浮かぶ、緊張感ある「芸術作品」に仕上がっています。

これほど知性を感じ、知的感覚を奮い立たせる写真集もないでしょう。
当然ですが、データ以外の余計な説明は一切ありません。
(つづく)
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2007年04月05日

男がギムレットを飲みたいとき

レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」(清水俊二版)は、高校生のときに読んで以来、これまで繰り返し読み続けている小説。
主人公フィリップ・マーロウは大人の男の永遠の理想像でもあります。

「ロング・グッドバイ」のタイトルで村上春樹版が刊行(早川書房)されています。

村上春樹ブランドにひかれて、これまで男の小説(ハードボイルド)だからと読むのを躊躇していた女性たちが手にとるきっかけになればと思います。

「長いお別れ」には、有名なセリフがいくつもありますが、清水版と村上版では微妙にニュアンスが違います。
どちらの訳が好みか、読み比べてみるのもいいでしょう。

清水俊二版 「アルコールは恋愛のようなもんだね」と彼は言った。「最初のキスには魔力がある。二度目はずっとしたくなる。三度目はもう感激がない。それからは女の服を脱がせるだけだ」

村上春樹版 「アルコールは恋に似ている。最初のキスは魔法のようだ。二度目で心を通わせる。そして三度目は決まりどおりになる。あとはただ相手の服を脱がせるだけだ」

清水俊二版 「こんなとき、フランス語にはいい言葉がある。フランス人はどんなことにもうまい言葉を持っていて、その言葉はいつも正しかった。
さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」

村上春樹版 「フランス人はこんな場にふさわしいひとことを持っている。フランス人というのはいかなるときも場にふさわしいひとことを持っており、どれもがうまくつぼにはまる。
さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ」

それにしても、いつの間にかマーロウの年齢を越えてしまった。
ギムレットを飲むのは、早いほうが、いい。
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2007年04月02日

両輪で考える癖

先日行われたJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「ロボットが拓く宇宙開発のNEXT STAGE」。

講演したトヨタの担当者にJAXA側から熱烈なラブコール(ロボット技術&お金)がありました。担当者は困惑気味でしたが。

そのトヨタが「自動車搭載用の標準ソフトウェアを独自開発」という記事が載っていました(日本経済新聞3/29)。

現在のクルマは大量の半導体やセンサーにより、2億回/秒の演算ができる電子制御の塊であり、今後は道路側からの情報で危険を察知し、事故を防ぐ高度技術の実用化も期待されています。
現在の製造物責任(PL)法ではソフトウェアは対象外ですが、今後、外部に委託したソフトウェアの不具合によって人身事故が発生した場合、責任の所在が問われることになります。

またソフトウェア開発はマイクロソフトやインテルが得意とするところであり、
庇を貸して母屋を取られてしまったパソコンの二の舞にもなりかねません。

「標準ソフトウェアの独自開発」は、将来のロボットの姿とも重なります。

モノ作りとして、また理数教育として、とかくハード面ばかり注目されるロボットですが、ソフトウェアとの両輪で考える癖をつけていく必要があるでしょう。

参考:安全・安心 ITS を支えるセンシング技術の最新動向
参考コラム: 当たり前のものを消していくと(06.6.1)
人知を超えた複雑さ(06.5.30)
グランドチャレンジU インテルの戦略(06.1.25)
posted by カーサ at 11:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ロボティック・ミッション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする