子供の頃、はじめて松尾芭蕉のこの句を聞いたとき、とても不思議な感じがしたものでした。
同じ印象は、種田山頭火の、
分け入つても分け入つても青い山
を聞いたときにも感じましたが、何故そう感じるのか、よくわかりませんでした。
17文字で表現する俳句は、古来から多くの人によって様々な句が作られてきました。
しかし、一度聞いてだけで決して忘れられない句というのは、それほど多くありません。
俳句の人気ベストテンがあれば、「古池〜」は間違いなく上位にランクインすることでしょう。
それは何故なのか。
「その時 歴史は動いた」(NHK)で、この句が誕生する背景が紹介されていました。
弟子たちを前に芭蕉はまず下の句を詠みました。
蛙飛こむ水のおと
古い俳諧の解釈では、蛙は鳴くものであり、「蛙が飛ぶ」という表現は相当意表をついたものだったようです。
また、蛙の対となるのは、従来の解釈では「山吹」というのが一般的で、当然弟子たちもその言葉が上の句にくるものと考えていました。
ところが、芭蕉が提示したのは、「古池」。
蛙の一瞬の躍動感と静謐な古池の様子。
それは様々な情景をイメージさせ、無限の解釈ができる世界。
芭蕉はこれにより、新しい俳諧の境地、不易流行に至ったといいます。
永遠不変(不易)と刻々の変化(流行)。
「古池〜」が320年以上に渡って、人々に愛される理由が、今にして分かった気がします。
参考 : 人知らずしてうらみず (2008.1.26)