ボストン美術館に寄贈された「スポルディングコレクション」の中から、歌川国政の作品が紹介されていました。
歌舞伎役者のいきいきとした表情を画面一杯に描いたその初期の作品は、同時代の絵師・写楽と比較しても圧倒的にすばらしいものでした。
しかし、その後の2回の中断を挟んで、国政は役者絵を描くのを止めてしまいます。
番組は、その理由として、大衆の好みがブロマイドのような役者絵から、芝居の内容がわかる絵柄を求めたこと、また版元が新興ベンチャーから老舗に変わったことを挙げていました。
人々のニーズが変われば、表現方法が変わるのは世の常とはいえ、
また商売である以上、版元の意向が絵師の表現を規制する結果になったというのもわからなくはありません。
しかし、写楽が9ヶ月で忽然と世の中から消えてしまったのも、国政が1年半で役者絵を描くのを止めてしまったのも、
自分が表現したいものと版元が要求するものとの葛藤に悩み、反撥し、やがて疲れ切り、馬鹿馬鹿しくなって、最後には「勝手にしやがれ」と筆を投げた、真相は案外そんなところかもしれません。
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