そんなことを感じる作品をふたつ。
ひとつは、画家の横尾忠則氏初の小説集「ぶるうらんど」(文藝春秋刊)。
7年間漆黒の闇の中を徘徊していた小説家が長年連れ添った妻の力で天上界に誘われますが、天上界にも格差があり、霊格の高い妻は上の階層に行ってしまいます。残された小説家は同じ階層に住む老画家と芸術や創造の意味について葛藤します。芸術へのこだわりに苦しむ夫を見かねた妻の計らいにより、やっと自由な精神を得た小説家は妻に手を引かれ、上の階層へ旅立ちます。
横尾忠則氏の絵画同様のマンダラのごとき精神世界が展開されるおもしろい小説で、読み終わったあと、きっとチャイが飲みたくなります。
もうひとつは、CGアーティストの河口洋一郎氏による展覧会「東京大学 表現科学展−知のサバイバル」。
由緒ある湯島聖堂大成殿中庭に、古代生物を思わせる怪奇な立体造形物や自己増殖を繰り返す超高精細CG・立体視映像などが配置され、非日常的な異空間を出現させました。
河口氏の研究テーマは、「原始生命ロボティクス」。
これは、「5億年以上前のカンブリア紀の生物や過酷なサバイバルを生き抜いてきたムカデやヒトデなどの生物をCGシミュレーションし、多様性と変化に富んだ進化型生物をリアルに造形することで、宇宙探査や深海探査などで活躍するロボットを目指す」というもの。
展示作品の制作には研究機関から資金援助を受けているため、「原始的な生命が有する身体特性、サバイバルするための危険察知、コミュニケーション手段などをロボットに実装する」という「社会に役立つ」面を公にしておく必要があったようですが、展示作品から放出されるなんともいえないエネルギーに接すれば、そんなことはどうでもいいように思えてきます。