ほとんど知る由もなかった侍の日常生活を完璧に記録した「金沢藩士猪山家文書」が歴史学者によって見出されたのが2001年。
そして、その文書の全容は2003年に「武士の家計簿」(磯田道史著)として出版されました。
「金沢藩士猪山家文書」は、加賀藩の御算用者(会計処理)であった猪山家三代37年間の幕末から明治に至る家計簿、書簡、日記などからなり、江戸時代の武士が家の格式を保つための「身分費用」や親族付き合い(冠婚葬祭)に大変な出費を強いられていたこと、武士の領主権は現実の土地から切り離されて弱かったこと、幕末から明治にかけては軍事調練などの兵站事務の重要性が増し、計算能力に長けた御算用者が重用されたことなどが明らかになりました。
「猪山家文書」には結婚に関する記述もあります。
江戸時代の結婚は婚姻届の提出を境に未婚と既婚がはっきり区別されていたわけではなく、未婚でも既婚でもないグレーゾーンの「結婚しつつある状態」、いわば「お試し期間」がありました。
実際、猪山家でも婚約が熟すよう、女性が少しずつ男性の実家を訪れ、半月ほど宿泊したりするなど、家同士で積極的な「婚活」が行われました。
また、家格が同程度であり、相手の家の事情があらかじめわかることなどの理由から、「いとこ婚」がポピュラーな結婚様式だったようです。
確かに、僕の親の世代くらいまでは兄弟も多く、父方、母方を合わせると「いとこ」が数十人はおり、それゆえ、自由恋愛が難しかった江戸時代には「いとこ婚」も普通のことだったのでしょう。
しかし、出生率が1.37(2008年)となり、20〜30歳代の6割が子供を必要と思わない(※)現状では、一人の「いとこ」さえ居ないケースもあり、平成の「いとこ婚」は限りなくありえない時代となってしまいました。
「武士の家計簿」は森田芳光監督により映画化され、来年公開予定。
※ 男女共同参画に関する世論調査 (12/5 内閣府)
参考:「武士の家計簿」(磯田道史著/新潮社)