700ページを超える大著で、読破するにはそれなりの時間を要するため、全編をどのくらいの人たちが読んだかはわからないが、まずは読んでみての感想を述べたいと思う。
様々な立場の専門家が執筆したこともあり、ロボットの定義や歴史から、技術要素、事例、取り巻く環境、社会実装するためのプロセス、今後の課題など、それらをまとめるだけで精一杯だったというのが全体を通じての印象である。
(僕も4章17「神奈川県のロボット実証実験」を書いている)
(1)研究開発とビジネス
ロボット(ロボット関連技術含む)の活用分野は非常に幅広い。
宇宙から海洋、介護から農業、災害支援から武器まで、ロボットの現状を語る(軍事を除く)必要から、それらをいっしょくたにするのは(わからなくはないが)、やはり無理がある。
また、編集者、執筆者の大半が大学や研究機関、行政などの方々なので、どうしても国主導のロボット政策や産業支援、教育論、来たる将来はこうあるべしといった総論中心の記述に陥りやすく、ロボットビジネスの現状認識も甘くなりがちである。
(2)産業用ロボット
ロボットが産業用ロボットからスタートし、歴史も実績もあることから、白書では産業用ロボットの記述も多い。それはそれで参考にはなるが、サービスロボットの記述が白書の基本だと思うので、産業用ロボットの項は今後導入普及が予想されるセル生産など、ヒトとの協調(協働)作業によりフォーカスすべきだろう。
(3)分野の偏り
これも編集者や執筆者の影響と思うが、相対的にフィールドロボット(原発、災害、建設など)やネットワークロボット、産業用ロボットなどへの言及が多く、特にフィールドロボット、産業用ロボットはかなり重複している部分が多い。
(4)海外事情
海外主要国の現状なども報告されているが、データや事例も参考になるものが少なく、もっと突っ込んだ記述が必要。特に米国のサービスロボットの状況についてはロボット関係者の関心・注目も高いと思うので、他の国以上に充実した内容にすべきだろう。
(5)バックキャスト
たぶん、この白書の編集者の一番のウリは、現在ある技術から将来を考える(フォアキャスト)のではなく、将来あるべき未来像からそれに必要な技術を描き(バックキャスト)、そのあるべき姿を現実にするために、ロボットをモノづくり主導ではなく、サービス主導で設計する、というところだと思う。
その考え方自体は良いと思うが、環境や社会の大きな変革や人々の心理や意識に影響を与える非常に幅広い事象をとり上げることにもなることから、どこまで深堀することができるか。
NEDOでは今後もこのロボット白書を改定していく意向のようなので、次回改定版に注目したいと思う。
(つづく)